1 00:00:13,347 --> 00:00:16,350 ‎♪~ 2 00:01:09,570 --> 00:01:12,573 ‎~♪ 3 00:01:15,576 --> 00:01:19,038 ‎(‎赤坂‎)‎1年ぶりの日本 ‎1年ぶりの我が家 4 00:01:19,122 --> 00:01:21,249 ‎ここでホッとするのが普通だが 5 00:01:21,332 --> 00:01:23,292 ‎やはり いやな気分だ 6 00:01:23,376 --> 00:01:27,296 ‎なぜなら留守中 ‎他人が住んでいたからだ 7 00:01:27,380 --> 00:01:31,634 ‎しかも その他人というのが ‎中学時代の教師一家 8 00:01:31,717 --> 00:01:33,845 ‎新築したばかりの この家を 9 00:01:33,928 --> 00:01:37,306 ‎よりによって ‎あんなヤツに貸さねばならんとは 10 00:01:37,390 --> 00:01:39,600 ‎もっとも画びょう1本 ‎打ってもらっては困ると 11 00:01:39,684 --> 00:01:41,394 ‎釘を刺しておいたが 12 00:01:41,477 --> 00:01:44,522 ‎その借家人も今は ‎すでに引き払っているはずだ 13 00:01:44,605 --> 00:01:47,108 ‎(赤坂)あれ 鍵どこだっけ? 14 00:01:54,615 --> 00:01:56,617 ‎(鍵を開ける音) 15 00:02:00,705 --> 00:02:02,123 ‎(においを嗅ぐ音) 16 00:02:02,206 --> 00:02:03,541 ‎何だ? 17 00:02:03,624 --> 00:02:06,377 ‎(スイッチを押す音) 18 00:02:16,179 --> 00:02:18,264 ‎あっ 何だ これは? 19 00:02:30,401 --> 00:02:31,110 ‎うっ 20 00:02:32,653 --> 00:02:34,405 ‎何だ これは… 21 00:02:34,488 --> 00:02:35,990 ‎腐ってる 22 00:02:36,073 --> 00:02:36,866 ‎うっぷ… 23 00:02:38,743 --> 00:02:41,287 ‎うええー! うっ 24 00:02:56,969 --> 00:02:57,637 ‎うっ 25 00:03:05,353 --> 00:03:07,271 ‎(‎誠二‎)兄さん? どこにいるの? 26 00:03:11,025 --> 00:03:13,194 ‎や… やあ 兄さん 久しぶり 27 00:03:13,277 --> 00:03:14,320 ‎(赤坂)入れよ 28 00:03:14,862 --> 00:03:17,323 ‎(誠二)いや 今日は ‎もう遅いから帰るよ 29 00:03:17,406 --> 00:03:19,700 ‎(赤坂)誠二 説明しろよ 30 00:03:21,994 --> 00:03:23,371 ‎(誠二)あ… 兄さん 31 00:03:23,454 --> 00:03:26,707 ‎兄さんが こんなに早く ‎帰国するとは思わなかったんだ 32 00:03:26,791 --> 00:03:28,501 ‎それで掃除も間に合わなくて 33 00:03:28,584 --> 00:03:30,336 ‎そういう問題か? 34 00:03:30,419 --> 00:03:33,422 ‎あの教師 俺が ‎家を貸すのを渋ったから 35 00:03:33,506 --> 00:03:35,132 ‎嫌がらせをしたってのか? 36 00:03:35,883 --> 00:03:39,428 ‎昔から陰険なヤツだったが ‎これほどとは思わなかった! 37 00:03:39,512 --> 00:03:41,430 ‎(誠二)兄さん 嫌がらせだなんて 38 00:03:41,514 --> 00:03:42,848 ‎じゃ 何なんだよ! 39 00:03:42,932 --> 00:03:46,477 ‎食い散らかしたダイニングと ‎アカまみれの風呂場は! 40 00:03:46,560 --> 00:03:49,397 ‎どう考えても嫌がらせだろ! 41 00:03:49,480 --> 00:03:51,732 ‎(誠二)いや… 僕の責任だ 42 00:03:51,816 --> 00:03:52,566 ‎え? 43 00:03:52,650 --> 00:03:55,778 ‎とにかく犬も捜しておくよ ‎それじゃあ 44 00:03:55,861 --> 00:03:57,947 ‎(赤坂)なっ おい 誠二! 45 00:04:00,408 --> 00:04:02,326 ‎まったく 46 00:04:04,120 --> 00:04:04,954 ‎くさいな 47 00:04:09,458 --> 00:04:13,170 ‎(掃除する音) 48 00:04:13,254 --> 00:04:14,297 ‎(赤坂)‎ロギ? 49 00:04:14,380 --> 00:04:17,008 ‎ロギって ‎あの‎呂木‎先生のことか? 50 00:04:17,091 --> 00:04:19,260 ‎(誠二)‎それが 先生のご自宅が 51 00:04:19,343 --> 00:04:21,887 ‎火事で全焼してしまったらしくてね 52 00:04:21,971 --> 00:04:24,432 ‎家を建て直す間だけ ‎借りたいと言うんだ 53 00:04:24,515 --> 00:04:27,768 ‎どうして 俺が ‎海外に行くって知ってるんだよ? 54 00:04:27,852 --> 00:04:29,478 ‎(誠二)‎どこかで ‎聞きつけたんだろう 55 00:04:29,562 --> 00:04:33,733 ‎勘弁してくれよ ‎家を建てたばかりで海外勤務 56 00:04:33,816 --> 00:04:35,484 ‎それだけでも ‎落ち込んでるんだぞ 57 00:04:35,568 --> 00:04:38,279 ‎(誠二)‎兄さんが あの先生を ‎嫌ってるのは知ってる 58 00:04:38,362 --> 00:04:41,198 ‎でも僕の担任だったし ‎断れなくて 59 00:04:41,282 --> 00:04:43,993 ‎それに犬の面倒は見るって ‎言ってる 60 00:04:44,076 --> 00:04:45,703 ‎それにしてもだなあ 61 00:04:45,786 --> 00:04:48,622 ‎(誠二)‎いいね ‎今度の日曜日だよ 頼むよ 62 00:04:49,373 --> 00:04:51,417 ‎お… おい ‎そんな勝手な… 63 00:04:52,376 --> 00:04:53,294 ‎ハァ… 64 00:04:53,878 --> 00:04:57,798 ‎(呂木)ほう ‎美しい白い家ですなあ 立派だ 65 00:04:57,882 --> 00:05:00,051 ‎さあ 先生 どうぞ中へ 66 00:05:01,927 --> 00:05:04,180 ‎(犬のほえる声) 67 00:05:04,263 --> 00:05:06,265 ‎(玄関チャイム) 68 00:05:09,393 --> 00:05:10,186 ‎(誠二)兄さん 69 00:05:11,187 --> 00:05:13,064 ‎呂木先生をお連れしたよ 70 00:05:13,647 --> 00:05:16,192 ‎(呂木)やあ こんにちは 71 00:05:17,193 --> 00:05:22,573 ‎15年ぶりになるのかな ‎実に立派な青年になって 72 00:05:22,656 --> 00:05:26,077 ‎ますます父君に ‎面影が似てまいりましたな 73 00:05:26,160 --> 00:05:28,579 ‎それに なんて ‎すばらしい住まいだ 74 00:05:28,662 --> 00:05:32,708 ‎君は教え子の中でも ‎一番の出世頭ですよ 75 00:05:33,626 --> 00:05:36,170 ‎これほど ‎うれしいことはないですなあ 76 00:05:36,253 --> 00:05:41,801 ‎それに こんな家に ‎住めるなんて夢のようだ 77 00:05:41,884 --> 00:05:43,469 ‎ちょっと待ってください 78 00:05:44,178 --> 00:05:46,347 ‎僕は まだ貸すとは ‎言ってないですよ 79 00:05:46,430 --> 00:05:48,891 ‎日本を発つまで ‎何日もないんです 80 00:05:48,974 --> 00:05:52,478 ‎今から受け入れられる ‎態勢にするのは無理です 81 00:05:52,561 --> 00:05:54,563 ‎他のマンションを ‎探してください 82 00:05:57,608 --> 00:06:01,862 ‎当たってはみたんだが ‎空き部屋がないんだ 83 00:06:01,946 --> 00:06:06,492 ‎今は親戚に厄介になってるが ‎肩身が狭くてね 84 00:06:06,575 --> 00:06:08,369 ‎このとおりです 85 00:06:09,328 --> 00:06:13,791 ‎ここがダメだと ‎もう行く所がないんだよ 頼むよ 86 00:06:14,291 --> 00:06:17,211 ‎(娘)パパー あたし ここがいい 87 00:06:17,294 --> 00:06:20,589 ‎ここに住みたい ‎ねえ パパ~ 88 00:06:21,674 --> 00:06:24,885 ‎兄さん… 兄さんが ‎海外に行ってる間のことは 89 00:06:24,969 --> 00:06:26,679 ‎僕が引き受けるからさ 90 00:06:27,596 --> 00:06:29,181 ‎僕からも頼むよ 91 00:06:29,265 --> 00:06:29,849 ‎誠二! 92 00:06:29,932 --> 00:06:31,308 ‎(赤ん坊の泣き声) 93 00:06:31,392 --> 00:06:33,519 ‎(誠二)おやおや ‎どうしたのかな? 94 00:06:33,602 --> 00:06:34,603 ‎おなか すいたのかな? 95 00:06:39,108 --> 00:06:43,195 ‎赤坂君 頼むよ ‎頼むよ 96 00:06:47,700 --> 00:06:51,162 ‎ん… ハァ… 97 00:06:59,628 --> 00:07:02,089 ‎妙なデコボコがある 98 00:07:02,173 --> 00:07:04,800 ‎以前は こんなじゃなかったぞ 99 00:07:09,138 --> 00:07:12,766 ‎何だ これは? ‎家の様子が変だ 100 00:07:18,606 --> 00:07:20,024 ‎(ドアノブを回す音) 101 00:07:20,107 --> 00:07:21,025 ‎何だ? 102 00:07:21,108 --> 00:07:22,276 ‎クソッ! 103 00:07:22,359 --> 00:07:26,280 ‎なぜだ 家全体が ‎おかしなことになってる! 104 00:07:32,745 --> 00:07:33,913 ‎(赤坂)誠二 105 00:07:34,413 --> 00:07:38,000 ‎一体 あの家族は ここで ‎どういう生活をしてたんだ? 106 00:07:38,083 --> 00:07:40,127 ‎そして今 ‎呂木は どこにいるんだ? 107 00:07:40,753 --> 00:07:41,587 ‎(誠二)兄さん 108 00:07:41,670 --> 00:07:45,591 ‎分からないんだ ‎何の連絡もなしに出ていったんだ 109 00:07:45,674 --> 00:07:48,594 ‎(赤坂)家ができたんだろ? ‎そこに行けば… 110 00:07:48,677 --> 00:07:50,179 ‎僕が もう行ってきた 111 00:07:50,679 --> 00:07:52,681 ‎でも家なんか ‎できちゃいなかった 112 00:07:52,765 --> 00:07:54,099 ‎焼け跡のままさ 113 00:07:54,683 --> 00:07:55,768 ‎何だって? 114 00:07:56,644 --> 00:08:01,482 ‎(家がゆがむ音) 115 00:08:09,448 --> 00:08:10,574 ‎(赤坂)カビだ 116 00:08:12,993 --> 00:08:14,662 ‎見ろよ 誠二 117 00:08:15,329 --> 00:08:18,457 ‎日に日に異常の度合いが ‎増していくんだ 118 00:08:18,541 --> 00:08:21,961 ‎よく見てくれ ‎表面はカビで覆われている 119 00:08:22,044 --> 00:08:24,380 ‎バスルームなんか ‎湿気のせいか特にひどい 120 00:08:24,463 --> 00:08:25,839 ‎もう使えないよ 121 00:08:25,923 --> 00:08:28,801 ‎それから なぜか ‎2階が一番ひどいんだ 122 00:08:28,884 --> 00:08:30,844 ‎湿気が多いわけでもないのに 123 00:08:31,637 --> 00:08:34,723 ‎おぞましい… ‎なんて おぞましいんだ 124 00:08:35,474 --> 00:08:37,685 ‎兄さん ここにいちゃいけないよ 125 00:08:37,768 --> 00:08:39,687 ‎早くこの家を出たほうがいい 126 00:08:39,770 --> 00:08:41,689 ‎(赤坂)お前 何か知ってるな? 127 00:08:41,772 --> 00:08:44,441 ‎何があったんだ ‎俺のいない間に 128 00:08:44,525 --> 00:08:48,070 ‎(誠二)うっ うわっ ああっ 129 00:08:51,240 --> 00:08:53,659 ‎(赤坂)何を お前 そんなに… 130 00:08:53,742 --> 00:08:55,953 ‎(誠二)知らない 何も知らないよ 131 00:08:56,036 --> 00:08:57,580 ‎(赤坂)言えよ 誠二 132 00:08:58,998 --> 00:09:00,374 ‎そっくりなんだ 133 00:09:00,457 --> 00:09:01,875 ‎何が? 134 00:09:01,959 --> 00:09:05,004 ‎家の状態が ‎あいつに そっくりなんだ! 135 00:09:05,087 --> 00:09:06,589 ‎(赤坂)あいつって誰だ? 136 00:09:07,631 --> 00:09:09,341 ‎赤ん坊だよ! 137 00:09:09,425 --> 00:09:11,969 ‎(赤ん坊がはう音) 138 00:09:17,141 --> 00:09:18,017 ‎ハッ! 139 00:09:18,100 --> 00:09:22,730 ‎(赤ん坊の笑い声) 140 00:09:30,279 --> 00:09:33,157 ‎兄さんの言うとおり ‎これはカビかもしれない 141 00:09:33,741 --> 00:09:35,492 ‎しかも新種の… 142 00:09:35,576 --> 00:09:38,537 ‎それが赤ん坊や長女にも ‎感染したんだ 143 00:09:40,539 --> 00:09:42,875 ‎兄さん ‎この家にいるのは危ないよ 144 00:09:42,958 --> 00:09:46,211 ‎早く家を出るんだ ‎ここにいちゃダメだ いいね 145 00:09:46,295 --> 00:09:49,548 ‎(赤坂)じゃあ お前の所で ‎しばらく泊めてくれるか? 146 00:09:49,632 --> 00:09:50,382 ‎(誠二)えっ? 147 00:09:50,466 --> 00:09:53,344 ‎ああ いいとも ‎じゃあ 148 00:09:57,598 --> 00:09:58,849 ‎(赤坂)ハァ… 149 00:10:03,937 --> 00:10:06,440 ‎(家がゆがむ音) 150 00:10:23,624 --> 00:10:24,249 ‎あっ 151 00:10:44,645 --> 00:10:45,479 ‎あっ! 152 00:10:55,155 --> 00:10:56,407 ‎呂木… 153 00:11:06,583 --> 00:11:07,918 ‎クソ… 154 00:11:08,001 --> 00:11:09,837 ‎それにしても 155 00:11:10,713 --> 00:11:12,506 ‎ああ かゆい 156 00:11:15,676 --> 00:11:18,470 ‎かゆいな… かゆい… 157 00:11:46,623 --> 00:11:49,209 ‎(‎香子‎)ここにいると思ったわ ‎五郎‎さん 158 00:11:50,627 --> 00:11:52,171 ‎(五郎)香子 159 00:11:52,254 --> 00:11:54,214 ‎(香子)今日は何を読んでいるの? 160 00:11:57,217 --> 00:11:58,177 ‎(五郎)香子! 161 00:11:59,636 --> 00:12:00,888 ‎香子! 162 00:12:00,971 --> 00:12:03,140 ‎どうしたの? 五郎さん 163 00:12:03,223 --> 00:12:05,476 ‎(五郎)ここにあった本を ‎知らないか? 164 00:12:05,559 --> 00:12:09,021 ‎ミッシェル・ランヌの ‎「冬風のルネ」という恋愛小説だ 165 00:12:09,104 --> 00:12:12,232 ‎ああ それなら ‎私が今 読んでいるわ 166 00:12:13,400 --> 00:12:17,654 ‎勝手に持ち出しては困る ‎読む時は僕に断ってくれ 167 00:12:17,738 --> 00:12:21,366 ‎いいかい? ‎僕は蔵書を守る義務がある 168 00:12:21,450 --> 00:12:24,745 ‎本が1冊たりとも ‎それが一時的にせよ 169 00:12:24,828 --> 00:12:27,039 ‎見つからないことは ‎我慢ならないんだ! 170 00:12:27,122 --> 00:12:27,956 ‎ごめんなさい 171 00:12:28,040 --> 00:12:29,374 ‎(五郎)本を戻しておいて 172 00:12:35,214 --> 00:12:37,299 ‎(香子)五郎さん ちょっといい? 173 00:12:37,382 --> 00:12:41,220 ‎(五郎)ああ ちょっと待って ‎もうすぐ書き終わるから 174 00:12:42,387 --> 00:12:43,055 ‎(香子)日記? 175 00:12:43,138 --> 00:12:45,182 ‎そう 今日の分 176 00:12:45,265 --> 00:12:47,059 ‎今まで欠かしたことがないんだ 177 00:12:47,142 --> 00:12:49,228 ‎4歳の頃からだっけ? 178 00:12:49,311 --> 00:12:53,190 ‎(五郎)ここには僕自身の記憶が ‎詰まっているというわけだ 179 00:12:53,273 --> 00:12:55,484 ‎蔵書が僕の過去を形づくり 180 00:12:55,567 --> 00:12:58,987 ‎この日記には ‎僕の今が書かれている 181 00:12:59,655 --> 00:13:01,990 ‎私のことも書いてあるのかしら? 182 00:13:02,074 --> 00:13:03,242 ‎(五郎)もちろん 183 00:13:08,080 --> 00:13:10,916 ‎(五郎のうめき声) 184 00:13:10,999 --> 00:13:12,918 ‎ううっ ああ! 185 00:13:13,001 --> 00:13:15,170 ‎(香子)五郎さん 大丈夫? 186 00:13:15,254 --> 00:13:17,297 ‎(五郎)悪い夢を見ていた 187 00:13:17,381 --> 00:13:19,675 ‎本が どんどん ‎なくなっていく夢だ 188 00:13:29,309 --> 00:13:29,977 ‎ハッ… 189 00:13:30,936 --> 00:13:31,812 ‎ない! 190 00:13:31,895 --> 00:13:35,607 ‎「冬風のルネ」がない! ‎どこへやったんだ 香子 191 00:13:35,691 --> 00:13:37,526 ‎ちゃんと棚に戻したわ 192 00:13:37,609 --> 00:13:40,028 ‎それは あなたも ‎確認したでしょう? 193 00:13:40,112 --> 00:13:42,531 ‎あれは母が ‎大切にしていた本なんだ 194 00:13:42,614 --> 00:13:45,868 ‎希少本… いや ‎当のあの本でないと! 195 00:13:45,951 --> 00:13:49,079 ‎もう遅いわ ‎明日 改めて捜しましょう? 196 00:13:49,162 --> 00:13:50,956 ‎(五郎)冗談じゃない! 197 00:13:51,039 --> 00:13:54,418 ‎今夜中に ‎この部屋の棚を確認しなきゃ 198 00:13:54,501 --> 00:13:58,005 ‎ハッ ‎赤錆 ‎谷男‎の ‎「‎有棘‎地獄」がない! 199 00:13:58,964 --> 00:14:01,133 ‎この世で一番恐ろしい本 200 00:14:01,633 --> 00:14:04,136 ‎あの父が最も大切にしていた本だ 201 00:14:04,219 --> 00:14:05,721 ‎五郎さん 202 00:14:05,804 --> 00:14:07,514 ‎(五郎)ない! ないぞ! 203 00:14:07,598 --> 00:14:10,684 ‎ちくしょう! ちくしょう! 204 00:14:39,504 --> 00:14:40,505 ‎(物音) 205 00:14:41,214 --> 00:14:43,967 ‎(五郎)ママ ママ 206 00:14:44,760 --> 00:14:45,969 ‎(‎章吾‎)本が! 207 00:14:46,553 --> 00:14:48,972 ‎私の本が逃げていく! 208 00:14:55,145 --> 00:15:01,276 ‎(玄関ベル) 209 00:15:10,994 --> 00:15:12,329 ‎(香子)五郎さん 210 00:15:12,412 --> 00:15:15,582 ‎(五郎)香子 ‎「冬風のルネ」が見つかったよ 211 00:15:15,666 --> 00:15:16,875 ‎(香子)え? 212 00:15:16,959 --> 00:15:19,419 ‎玄関のベルを鳴らして ‎立っていた 213 00:15:19,503 --> 00:15:20,921 ‎ベルを鳴らして? 214 00:15:21,004 --> 00:15:24,758 ‎(五郎)美しい女性だった ‎どこか母に似ていた 215 00:15:24,841 --> 00:15:28,345 ‎しかし 彼女は間違いなく ‎「冬風のルネ」だった 216 00:15:28,428 --> 00:15:29,429 ‎その証拠に 217 00:15:29,513 --> 00:15:32,849 ‎小説「冬風のルネ」の ‎第1章から奥付に至るまで 218 00:15:32,933 --> 00:15:35,394 ‎すべてを正確に暗唱したんだ 219 00:15:35,978 --> 00:15:38,730 ‎そして「冬風のルネ」を ‎そらんずる以外は 220 00:15:38,814 --> 00:15:40,941 ‎全くの廃人のようだ 221 00:15:41,024 --> 00:15:43,902 ‎(香子)まあ 五郎さん ‎夢を見たのね 222 00:15:43,986 --> 00:15:47,614 ‎夢じゃないよ ‎今も そこに立ってるじゃないか 223 00:15:48,490 --> 00:15:51,493 ‎ほら 「冬風のルネ」が 224 00:15:56,039 --> 00:15:59,084 ‎(五郎)うう… うっ… 225 00:15:59,167 --> 00:16:01,420 ‎(香子)五郎さん どうしたの? 226 00:16:01,503 --> 00:16:06,174 ‎帰ってきた 帰ってきたんだ ‎「有棘地獄」が! 227 00:16:06,258 --> 00:16:09,678 ‎あいつは この世で ‎一番恐ろしい小説だ! 228 00:16:09,761 --> 00:16:11,513 ‎僕は追い返そうとした 229 00:16:11,596 --> 00:16:14,391 ‎しかし あいつは ‎窓から侵入して そして 230 00:16:14,474 --> 00:16:17,936 ‎あの呪われた小説を ‎不快なガラガラ声で朗読した 231 00:16:18,020 --> 00:16:21,106 ‎その小説の ‎なんと恐ろしいことか! 232 00:16:24,151 --> 00:16:25,861 ‎(香子)ああ 五郎さん 233 00:16:25,944 --> 00:16:28,280 ‎一度 お医者様に ‎診てもらいましょう 234 00:16:28,363 --> 00:16:32,617 ‎(五郎)香子 その必要はない ‎僕に考えがあるんだ 235 00:16:32,701 --> 00:16:36,329 ‎あいつは また来る ‎必ず また来る 236 00:16:40,584 --> 00:16:43,587 ‎(時報) 237 00:17:03,273 --> 00:17:04,524 ‎(有棘地獄)ククク… 238 00:17:04,608 --> 00:17:05,275 ‎(五郎)ひっ! 239 00:17:07,444 --> 00:17:10,072 ‎“呪われた散文を ‎地獄の亡者らに捧げる” 240 00:17:10,155 --> 00:17:12,491 ‎“序章 アグドゥルム ‎グ シャウエメク” 241 00:17:12,574 --> 00:17:14,785 ‎“その血生臭い事件が ‎世の中を震え上がらせ” 242 00:17:14,868 --> 00:17:17,662 ‎“‎尚且‎つ私の網膜に現れた ‎不吉な予兆が” 243 00:17:17,746 --> 00:17:19,998 ‎“やがて脳全体に広がるに至って ‎もはや…” 244 00:17:20,082 --> 00:17:20,916 ‎(香子)五郎さん? 245 00:17:20,999 --> 00:17:22,250 ‎“明らかな地獄の入り口が” 246 00:17:22,334 --> 00:17:23,877 ‎ひいいーっ! 247 00:17:23,960 --> 00:17:24,961 ‎(香子)五郎さん 248 00:17:25,045 --> 00:17:27,255 ‎(五郎)“そもそも あの出来事が” 249 00:17:27,339 --> 00:17:29,800 ‎“これほどまでに ‎私の精神を‎蝕‎み” 250 00:17:29,883 --> 00:17:32,385 ‎“肉体に‎忌‎わしい変更を ‎もたらしたのは” 251 00:17:32,469 --> 00:17:34,971 ‎“やはり地獄の作用に ‎他ならないのだ” 252 00:17:35,055 --> 00:17:38,600 ‎“1955年に あの呪われた ‎手術師によって” 253 00:17:38,683 --> 00:17:41,019 ‎“施された奇怪な‎掻爬‎術は” 254 00:17:41,103 --> 00:17:44,606 ‎“私を一層 異常な状況へと ‎押しやった” 255 00:17:45,190 --> 00:17:46,566 ‎“最終章” 256 00:17:46,650 --> 00:17:47,776 ‎“サモタル” 257 00:17:48,777 --> 00:17:50,320 ‎“ヤフエドラ” 258 00:17:50,403 --> 00:17:54,449 ‎うおあああ! 259 00:17:56,868 --> 00:18:01,331 ‎有棘地獄は消滅した ‎僕が勝ったんだ 260 00:18:02,541 --> 00:18:05,210 ‎もう… 大丈夫だ 261 00:18:12,300 --> 00:18:15,095 ‎うおあああ! 262 00:18:15,762 --> 00:18:19,224 ‎ルネが…「冬風のルネ」が ‎消滅した! 263 00:18:20,433 --> 00:18:21,685 ‎仕方なかったんだ 264 00:18:21,768 --> 00:18:23,979 ‎彼女の暗唱に耳を傾けるうちに 265 00:18:24,062 --> 00:18:26,565 ‎僕の頭の中に記憶してしまった 266 00:18:27,357 --> 00:18:30,986 ‎もう彼女は二度と僕の前に ‎現れることはないだろう 267 00:18:31,820 --> 00:18:33,738 ‎こんな思いをするなら 268 00:18:33,822 --> 00:18:36,575 ‎最初から現れないほうが ‎よかったんだ 269 00:18:36,658 --> 00:18:38,785 ‎だから僕は決心した 270 00:18:38,869 --> 00:18:41,163 ‎すべてを僕の中に ‎取り込んでやる! 271 00:18:41,246 --> 00:18:43,582 ‎別れの悲しさを ‎味わうくらいなら 272 00:18:44,166 --> 00:18:47,335 ‎すべての蔵書を ‎頭に収めてしまうよ! 273 00:18:55,427 --> 00:19:00,849 ‎(暗唱する声) 274 00:19:10,609 --> 00:19:14,654 ‎(五郎)ハァ ハァ ハァ… 275 00:19:17,365 --> 00:19:18,450 ‎(香子)五郎さん 276 00:19:20,160 --> 00:19:22,287 ‎お願い もうやめて 277 00:19:22,370 --> 00:19:25,707 ‎邪魔しないでくれ ‎もう少しなんだ 278 00:19:26,208 --> 00:19:29,836 ‎しかし 僕の脳の容量も ‎限界に近い 279 00:19:29,920 --> 00:19:34,174 ‎すべて 暗記できるか… ‎それとも 脳がパンクするか 280 00:19:34,883 --> 00:19:37,594 ‎膨大な知識が ‎頭に入った代わり 281 00:19:37,677 --> 00:19:41,348 ‎僕自身の記憶が ‎なくなってしま… 282 00:19:42,682 --> 00:19:45,727 ‎“俺は隙を見て彼女の‎鞄‎の中に ‎ヘッドフォンステレオを入れた” 283 00:19:45,810 --> 00:19:47,354 ‎“‎逢引‎きの様子を ‎録音してやろうと…” 284 00:19:52,776 --> 00:19:55,111 ‎“第1章 出会い” 285 00:19:55,195 --> 00:19:59,199 ‎“ルネの恋は ‎あの街に降る雪のように淡く” 286 00:19:59,783 --> 00:20:01,910 ‎“消え去ろうとしていた” 287 00:20:11,795 --> 00:20:13,129 ‎(香子)五郎さん 288 00:20:15,840 --> 00:20:17,217 ‎(五郎)ああ… 289 00:20:18,176 --> 00:20:21,054 ‎そこにいたんですね 290 00:20:22,889 --> 00:20:24,432 ‎ルネ… 291 00:20:28,103 --> 00:20:29,145 ‎(ランプが割れる音) 292 00:20:48,748 --> 00:20:51,042 ‎(章吾)‎“アサルティテ・ ‎ドグクラモス アフロディーナ” 293 00:20:51,126 --> 00:20:53,962 ‎“繰り返す アサルティテ・ ‎ドグクラモス アフロディーナ” 294 00:20:54,045 --> 00:20:57,382 ‎“感じるのは私の肉体の変容 ‎精神の変異” 295 00:20:57,465 --> 00:21:01,594 ‎“変異は私の視覚において ‎明確な形となって現れ” 296 00:21:01,678 --> 00:21:04,848 ‎“世界は全て輝き ‎同時に暗闇へ‎堕‎ちていく” 297 00:21:04,931 --> 00:21:08,351 ‎“どこまでも続く世界は ‎同時にそこで‎終焉‎している” 298 00:21:08,435 --> 00:21:11,229 ‎“例の‎壺‎のごとき ‎裏でも表でもある世界は” 299 00:21:11,313 --> 00:21:15,066 ‎“表層と象徴が混じり合い ‎溶け合い奇妙な色を持っている” 300 00:21:15,150 --> 00:21:17,610 ‎“私は地獄への道程で ‎それに気付いた” 301 00:21:17,694 --> 00:21:20,363 ‎“すなわち地獄こそ ‎天国への入り口であり” 302 00:21:20,447 --> 00:21:23,033 ‎“天国こそ地獄への ‎入り口であるのだと” 303 00:21:23,116 --> 00:21:28,038 ‎“ああ地獄の民よ 叫べ ‎喉‎が張り裂けんばかりに叫べ” 304 00:21:28,121 --> 00:21:31,124 ‎♪~ 305 00:23:24,237 --> 00:23:27,240 ~♪ 306 00:23:30,118 --> 00:23:33,830 ‎(ナレーション)‎さあ ‎突き立つ墓標に耳を澄ましたまえ 307 00:23:34,706 --> 00:23:36,666 ‎その数々の墓標に 308 00:23:36,749 --> 00:23:40,587 ‎ほらほら 話し合っている声が ‎私にも聞こえるだろう? 309 00:23:41,087 --> 00:23:45,008 ‎私に聞こえるということは ‎あなたにも聞こえるということ 310 00:23:46,134 --> 00:23:49,304 ‎でもねえ ‎聞こえない人のために私は 311 00:23:49,387 --> 00:23:52,307 ‎虫に教えておかないと ‎いけないのだよ