1 00:00:30,750 --> 00:00:31,833 さてと 2 00:00:32,583 --> 00:00:35,750 ここが私の執筆用の小屋だ 3 00:00:37,000 --> 00:00:39,875 ここで過ごして30年になる 4 00:00:39,875 --> 00:00:42,916 奇才ヘンリー・シュガーの物語 5 00:00:40,708 --> 00:00:42,916 {\an8}一番大事なのは⸺ 6 00:00:42,916 --> 00:00:44,541 奇才ヘンリー・シュガーの物語 7 00:00:43,000 --> 00:00:46,541 {\an8}執筆前に必要な物を そろえること 8 00:00:48,083 --> 00:00:52,208 タバコはもちろん コーヒーにチョコレート 9 00:00:53,958 --> 00:00:57,875 鉛筆は芯が とがってないといけない 10 00:00:59,916 --> 00:01:03,458 それを6本 そして執筆台の掃除だ 11 00:01:05,583 --> 00:01:07,500 消しカスが残ってる 12 00:01:08,833 --> 00:01:09,666 いいぞ 13 00:01:11,958 --> 00:01:14,125 ようやく執筆開始 14 00:01:17,125 --> 00:01:20,916 大抵 何ヵ所か 直しが入るものだ 15 00:01:23,458 --> 00:01:24,291 よし... 16 00:01:34,250 --> 00:01:38,041 ヘンリー・シュガーは41歳 独身で裕福 17 00:01:38,666 --> 00:01:41,625 裕福なのは亡き父のお陰 18 00:01:41,625 --> 00:01:45,791 独身なのは 妻と金を分けたくないから 19 00:01:45,791 --> 00:01:50,291 身長188センチ 二枚目と うぬぼれてる 20 00:01:50,291 --> 00:01:55,250 服には非常に気を配る スーツは高級テーラー 21 00:01:55,250 --> 00:01:58,666 シャツと靴は 専門店でオーダー 22 00:01:58,666 --> 00:02:01,583 10日に1度 理髪店で整髪 23 00:02:01,583 --> 00:02:04,458 マニキュアも忘れない 24 00:02:04,458 --> 00:02:08,666 車はフェラーリ 値段は田舎の家1軒ほど 25 00:02:10,291 --> 00:02:14,000 友人も裕福で 彼は働いたことがない 26 00:02:15,000 --> 00:02:19,500 彼のような男は 世界中に山ほどいる 27 00:02:19,500 --> 00:02:23,291 特に悪人ではないが 善人でもない 28 00:02:24,458 --> 00:02:26,416 人生の彩りの一部 29 00:02:28,375 --> 00:02:30,625 彼のような金持ちは⸺ 30 00:02:30,625 --> 00:02:34,875 共通点がある 金に対する強い衝動だ 31 00:02:35,791 --> 00:02:38,625 1000万ポンドでも満足せず 32 00:02:38,625 --> 00:02:41,583 飽くなき欲望に苛(さいな)まれ 33 00:02:41,583 --> 00:02:45,250 明日は口座の金が ゼロかもと怯(おび)え 34 00:02:45,250 --> 00:02:48,583 あの手この手で利殖に励む 35 00:02:48,583 --> 00:02:51,333 株を買い 一喜一憂する者 36 00:02:49,291 --> 00:02:51,416 {\an8}“ジプシー・ハウス” 37 00:02:51,416 --> 00:02:52,250 土地や美術品に投資する者 カジノや競馬 {\an8}“ジプシー・ハウス” 38 00:02:52,250 --> 00:02:56,333 土地や美術品に投資する者 カジノや競馬 39 00:02:56,333 --> 00:02:58,416 何にでも賭ける者 40 00:02:58,416 --> 00:03:02,541 ヘンリーも同類 イカサマも辞さない 41 00:03:03,500 --> 00:03:08,166 ある夏の週末 彼はウィリアム・W卿を訪問 42 00:03:08,166 --> 00:03:10,583 屋敷も庭も壮麗だが⸺ 43 00:03:10,583 --> 00:03:14,166 到着した土曜は 土砂降りだった 44 00:03:14,166 --> 00:03:17,458 皆がゲームに 興じている一方で⸺ 45 00:03:17,458 --> 00:03:21,708 不機嫌そうに 雨粒を眺めるヘンリー 46 00:03:21,708 --> 00:03:25,041 ヘンリーは 客間を抜け出した 47 00:03:25,041 --> 00:03:29,375 当てもなく邸内を歩き 入ったのは書斎 48 00:03:32,250 --> 00:03:34,416 卿の父は蔵書家 49 00:03:34,416 --> 00:03:39,291 四方の壁は天井まで 革装丁の本でいっぱい 50 00:03:39,291 --> 00:03:44,166 推理小説とスリラーしか 読まない彼には退屈だ 51 00:03:44,166 --> 00:03:48,500 帰ろうとして 変わった物に目が留まる 52 00:03:48,500 --> 00:03:53,541 突き出ていなければ 薄くて見逃しただろう 53 00:03:53,541 --> 00:03:55,166 棚から抜く 54 00:03:55,166 --> 00:03:59,166 子供が学校で使う 筆記帳のたぐいだ 55 00:03:59,166 --> 00:04:01,833 濃紺の表紙に表題なし 56 00:04:01,833 --> 00:04:05,750 1ページ目に きれいな手書き文字で... 57 00:04:05,750 --> 00:04:09,166 “イムダッド・カーン面談記 目を使わずに見る男” 58 00:04:08,666 --> 00:04:09,250 {\an8}奇妙で不思議だ 59 00:04:09,250 --> 00:04:10,958 “医学博士 Z・Z・チャテルジー” {\an8}奇妙で不思議だ 60 00:04:11,791 --> 00:04:12,666 何なんだ? 61 00:04:13,291 --> 00:04:16,750 彼は椅子に収まり 読み出した 62 00:04:16,750 --> 00:04:20,083 書かれていたのは 次のような話だ 63 00:04:24,958 --> 00:04:28,916 私はカルカッタの 病院の外科部長だ 64 00:04:28,916 --> 00:04:33,291 1935年12月2日朝 休憩室で休んでいた 65 00:04:33,291 --> 00:04:36,916 マーシャルら 同僚3人と一緒だ 66 00:04:36,916 --> 00:04:38,500 そこへノック 67 00:04:38,500 --> 00:04:39,750 “どうぞ”と私 68 00:04:41,458 --> 00:04:44,750 失礼ながら お願いがあります 69 00:04:44,750 --> 00:04:46,500 “医師専用だぞ” 70 00:04:46,500 --> 00:04:51,791 突然ですみません お見せしたいことがあって 71 00:04:51,791 --> 00:04:54,208 我々は迷惑顔で黙る 72 00:04:55,208 --> 00:04:59,375 私は目を使わずに 見ることができます 73 00:05:00,208 --> 00:05:05,375 小柄で60歳前後 口ひげ 濃い耳毛が目立つ 74 00:05:05,375 --> 00:05:10,500 包帯で何重に巻かれても 私は本が読めます 75 00:05:10,500 --> 00:05:14,166 本気のようだ 興味が湧いてきた 76 00:05:14,166 --> 00:05:15,250 入って 77 00:05:22,166 --> 00:05:25,791 では 彼は指を 何本 立てている? 78 00:05:25,791 --> 00:05:26,583 7本 79 00:05:27,291 --> 00:05:27,875 9本 80 00:05:28,666 --> 00:05:29,375 3本 81 00:05:29,875 --> 00:05:30,708 また3本 82 00:05:30,708 --> 00:05:31,791 これは? 83 00:05:32,333 --> 00:05:33,416 立ててない 84 00:05:35,458 --> 00:05:36,333 トリック? 85 00:05:36,333 --> 00:05:40,333 長年の修行による 本物の能力です 86 00:05:40,333 --> 00:05:41,708 どんな修行? 87 00:05:41,708 --> 00:05:44,208 ご勘弁を 話せません 88 00:05:45,125 --> 00:05:46,291 では なぜ? 89 00:05:46,291 --> 00:05:49,333 旅の一座で 初めてここへ 90 00:05:49,333 --> 00:05:52,791 今夜ロイヤル・ホールで 初公演が 91 00:05:52,791 --> 00:05:56,708 “目を使わずに見る男”が 売り文句です 92 00:05:56,708 --> 00:06:00,250 一座が町に着くと 病院を訪ね 93 00:06:00,250 --> 00:06:03,791 先生に包帯で 目隠しを頼みます 94 00:06:03,791 --> 00:06:08,208 お医者さんでないと 皆が疑いますから 95 00:06:08,208 --> 00:06:11,041 そして道路で危険な技を 96 00:06:11,041 --> 00:06:15,791 他の2人は患者が待ってた “行ってくれ” 97 00:06:15,791 --> 00:06:20,708 だがマーシャル先生は... “面白い 完璧な目隠しを” 98 00:06:20,708 --> 00:06:23,208 どうも ではお好きに 99 00:06:23,208 --> 00:06:27,291 まず眼窩(がんか)を 軟らかい物で埋めないと 100 00:06:27,291 --> 00:06:31,375 “パン生地は?” 頼む まぶたを封印しとく 101 00:06:31,375 --> 00:06:33,916 私はカーンを診療室へ 102 00:06:33,916 --> 00:06:37,666 寝かせると コロジオンの瓶を手に 103 00:06:37,666 --> 00:06:39,916 まぶたを接着する 104 00:06:39,916 --> 00:06:41,291 後で取れます? 105 00:06:41,291 --> 00:06:44,833 アルコールで拭けば 薬は溶ける 106 00:06:44,833 --> 00:06:47,583 固まるまで閉じていて 107 00:06:47,583 --> 00:06:51,041 2分経過 “開けられる?” 無理だ 108 00:06:51,041 --> 00:06:55,000 届いたパン生地を 目に塗っていく 109 00:06:55,000 --> 00:06:59,000 眼窩を埋め 周囲の皮膚まで伸ばす 110 00:06:59,000 --> 00:07:02,583 もう片方も 端を強く押しつける 111 00:07:02,583 --> 00:07:04,166 “不具合はない?” 112 00:07:04,166 --> 00:07:05,416 ちっとも 113 00:07:05,416 --> 00:07:09,000 包帯を頼む 指がベトベトなんだ 114 00:07:09,000 --> 00:07:11,833 喜んで その前にこれを 115 00:07:11,833 --> 00:07:16,375 厚い脱脂綿を載せた しっかり生地に付いてる 116 00:07:16,375 --> 00:07:17,583 体を起こして 117 00:07:18,125 --> 00:07:21,416 8センチ幅の包帯を 巻いていく 118 00:07:21,416 --> 00:07:23,833 鼻は巻かないで 119 00:07:23,833 --> 00:07:24,750 もちろん 120 00:07:25,750 --> 00:07:28,708 きつい所はピンで留める 121 00:07:31,166 --> 00:07:32,166 どうだい? 122 00:07:32,166 --> 00:07:35,708 “見事だ” まるで脳手術の患者だ 123 00:07:35,708 --> 00:07:36,666 気分は? 124 00:07:36,666 --> 00:07:40,916 いいです 完璧な仕事に感謝します 125 00:07:40,916 --> 00:07:44,166 カーンはベッドを下り ドアへ 126 00:07:51,291 --> 00:07:54,458 驚いたな ノブをつかんだぞ 127 00:07:54,458 --> 00:07:55,958 笑みが消える 128 00:07:56,541 --> 00:08:01,458 平然と歩くカーン 5メートル後方を尾行する 129 00:08:01,458 --> 00:08:06,000 巨大な白い頭の男が 歩く姿は不気味だ 130 00:08:06,000 --> 00:08:09,875 “彼はワゴンが見えてる 信じられん!” 131 00:08:09,875 --> 00:08:14,166 マーシャルはショックで 顔がこわばってる 132 00:08:14,166 --> 00:08:18,208 階段を下るカーン 手すりも使わない 133 00:08:18,208 --> 00:08:20,750 すれ違う人が驚く 134 00:08:21,875 --> 00:08:25,208 彼は下りきると 外へと続くドアへ 135 00:08:25,833 --> 00:08:28,166 我々は尾行を続けた 136 00:08:28,166 --> 00:08:31,500 中庭には100人ほどの子供が 集まっていた {\an8}“病院勤務医により 目隠し済み” 137 00:08:31,500 --> 00:08:33,166 中庭には100人ほどの子供が 集まっていた 138 00:08:33,166 --> 00:08:38,833 声援に応え 自転車に乗り 庭を8の字に走り出す 139 00:08:38,833 --> 00:08:41,708 熱狂し 追う子供たち 140 00:08:41,708 --> 00:08:44,583 彼は速度を上げ 表通りへ 141 00:08:44,583 --> 00:08:47,916 四方からクラクションが響く 142 00:08:47,916 --> 00:08:51,708 颯爽(さっそう)と走る彼を ただ見つめる我々 143 00:08:51,708 --> 00:08:53,750 角を曲がり 消えた 144 00:08:53,750 --> 00:08:57,375 マーシャルが言う “信じられない” 145 00:08:57,375 --> 00:09:01,250 “私もだよ” 奇跡を目撃したらしい 146 00:09:01,250 --> 00:09:03,875 その日は患者に追われ 147 00:09:03,875 --> 00:09:06,541 夕刻 着替えに自宅へ 148 00:09:06,541 --> 00:09:11,500 シャワーを浴び ベランダでハイボールを飲む 149 00:09:11,500 --> 00:09:14,500 7時にロイヤル・ホールへ 150 00:09:14,500 --> 00:09:17,833 2時間の公演を楽しんだ 151 00:09:17,833 --> 00:09:22,666 ジャグラー ヘビ使い 火食い術師 剣呑み師 152 00:09:22,666 --> 00:09:27,000 そしてファンファーレ カーンの登場だ 153 00:09:27,000 --> 00:09:30,041 観客に目隠しをさせると⸺ 154 00:09:30,041 --> 00:09:34,541 座員相手にナイフ投げ 頭上の缶撃ち 155 00:09:34,541 --> 00:09:38,458 最後にドラム缶が被せられた 156 00:09:38,458 --> 00:09:42,291 座員が片手に針 片手に糸を渡す 157 00:09:42,291 --> 00:09:44,708 拡大鏡が彼の前に 158 00:09:44,708 --> 00:09:49,458 カーンは1度目で 針の穴に糸を通した 159 00:09:54,208 --> 00:09:55,208 仰天だ 160 00:09:57,583 --> 00:10:01,625 楽屋の彼は 静かに椅子に座っていた 161 00:10:01,625 --> 00:10:03,416 興味が湧いた? 162 00:10:03,416 --> 00:10:04,666 “おおいに” 163 00:10:04,666 --> 00:10:08,583 飛び出た濃い耳毛に また目がいく 164 00:10:08,583 --> 00:10:10,916 他で見たことがない 165 00:10:10,916 --> 00:10:13,458 私は作家ではないが⸺ 166 00:10:13,458 --> 00:10:18,833 その力の習得法を 話してくれれば 私が記録し 167 00:10:18,833 --> 00:10:23,125 英国の医学誌か 有名誌に発表しよう 168 00:10:23,125 --> 00:10:25,375 君は有名になれる 169 00:10:25,375 --> 00:10:27,416 ありがたい “結構” 170 00:10:27,416 --> 00:10:30,333 カルテ用に速記が使える 171 00:10:30,333 --> 00:10:33,500 彼の話を正確に記録できる 172 00:10:33,500 --> 00:10:35,750 今から披露しよう 173 00:10:37,041 --> 00:10:40,541 カーンが語った話 逐語記録 174 00:10:42,708 --> 00:10:45,791 私は1873年 カシミール生まれ 175 00:10:45,791 --> 00:10:48,916 父は国営鉄道の検札係です 176 00:10:48,916 --> 00:10:53,833 ある日 学校に奇術師が 私は虜(とりこ)になりました 177 00:10:53,833 --> 00:10:58,375 2週間後 家出し 旅の一座に加わりました 178 00:10:58,375 --> 00:11:01,708 1886年 私が13歳の時です 179 00:11:01,708 --> 00:11:05,500 3年間 一座と パンジャブ中を回り 180 00:11:05,500 --> 00:11:08,125 最後は花形演者でした 181 00:11:08,125 --> 00:11:10,666 その間 貯金を続け 182 00:11:10,666 --> 00:11:14,541 ついに3000ルピーを 超えました 183 00:11:14,541 --> 00:11:19,958 その頃 空中浮揚をする ヨガ行者の噂を聞きます 184 00:11:19,958 --> 00:11:25,208 彼が祈ると 46センチまで 体が浮くのだとか 185 00:11:25,208 --> 00:11:27,708 話半分でもすごい 186 00:11:28,375 --> 00:11:29,208 白ひげ? 187 00:11:31,666 --> 00:11:33,000 一座を辞め 188 00:11:33,000 --> 00:11:38,375 ガンジス川のほとりの 行者が住むという町へ 189 00:11:38,375 --> 00:11:40,833 町で旅人の話を耳に 190 00:11:40,833 --> 00:11:45,958 そう遠くない密林の奥で 行者に会ったのだとか 191 00:11:45,958 --> 00:11:48,375 私は すぐ馬車屋へ 192 00:11:49,083 --> 00:11:53,291 御者と交渉中 同じ方向へ行く客が現れ 193 00:11:53,291 --> 00:11:56,291 馬車代を折半しようと 194 00:11:56,291 --> 00:11:59,166 何という幸運でしょう 195 00:11:59,166 --> 00:12:03,625 会話から 彼は行者の弟子だと分かり 196 00:12:03,625 --> 00:12:06,541 師に会いに行くとのこと 197 00:12:06,541 --> 00:12:10,416 “その方を捜してたんです ご紹介を!” 198 00:12:10,416 --> 00:12:15,458 長い沈黙の後 彼が言います “それは不可能だ” 199 00:12:15,458 --> 00:12:18,750 以降 彼の口数は 減りましたが⸺ 200 00:12:18,750 --> 00:12:21,416 1つだけ聞き出しました 201 00:12:21,416 --> 00:12:24,625 行者が瞑想(めいそう)を始める時間です 202 00:12:24,625 --> 00:12:28,958 弟子は馬車を止め 降りていきました 203 00:12:28,958 --> 00:12:33,875 馬車が角を曲がるや 私は飛び降り 引き返す 204 00:12:33,875 --> 00:12:38,750 彼の姿はありませんが 下草でガサガサ音が 205 00:12:38,750 --> 00:12:41,125 彼でなければトラです 206 00:12:41,125 --> 00:12:43,750 今にも飛びかかられて 207 00:12:43,750 --> 00:12:46,791 食べられると思いました... 208 00:12:47,958 --> 00:12:49,041 彼でした 209 00:12:51,125 --> 00:12:54,583 彼は道なき道を 歩き続けました 210 00:12:54,583 --> 00:12:58,791 行く手は高い竹やぶや 深い茂み 211 00:12:58,791 --> 00:13:02,833 90メートル背後から こっそり追います 212 00:13:02,833 --> 00:13:08,458 ほぼ見失っていましたが 彼の足音で追えたのです 213 00:13:08,458 --> 00:13:11,750 30分ほど 追いかけっこが続き 214 00:13:11,750 --> 00:13:14,666 突然 足音が消えました 215 00:13:14,666 --> 00:13:16,625 耳を澄ませます 216 00:13:16,625 --> 00:13:21,166 下草越しに空き地と 2軒の小屋が見えた 217 00:13:21,166 --> 00:13:26,208 近くの小屋の横に池 瞑想用の敷物も見えます 218 00:13:26,208 --> 00:13:31,208 上には太い枝に 葉の茂るバオバブの木が 219 00:13:31,208 --> 00:13:36,500 私は昼時の熱気 午後の湿気の中を待ち 220 00:13:36,500 --> 00:13:41,416 5時前に木に登ると 葉の陰に隠れました 221 00:13:41,416 --> 00:13:45,541 ついに行者が現れ 敷物の上で胡座(あぐら)を 222 00:13:45,541 --> 00:13:48,208 動きは静かで優雅です 223 00:13:48,208 --> 00:13:53,041 手のひらを 膝に置き 鼻から息を吸うと⸺ 224 00:13:53,041 --> 00:13:56,875 ある種の輝きが 彼を覆いました 225 00:13:56,875 --> 00:14:00,291 そして14分間 微動だにしない 226 00:14:00,291 --> 00:14:04,000 そして見たんです 誓ってもいい 227 00:14:04,000 --> 00:14:06,500 ゆっくり浮くのを 228 00:14:07,666 --> 00:14:11,333 30センチ 40 45 50 229 00:14:12,083 --> 00:14:14,166 ついに60センチ 230 00:14:14,166 --> 00:14:19,500 私の目の前で 男が宙に座っているんです 231 00:14:20,458 --> 00:14:24,416 私の時計で46分間 浮いていました 232 00:14:24,416 --> 00:14:26,708 やがて徐々に地面へ 233 00:14:26,708 --> 00:14:29,333 再び尻が敷物に接する 234 00:14:29,333 --> 00:14:34,291 私は木を下りると 手と足を洗う行者の元へ 235 00:14:34,291 --> 00:14:36,583 “いつから いた?”と彼 236 00:14:36,583 --> 00:14:41,791 そしてレンガを投げつけ 私の右膝下に命中 237 00:14:41,791 --> 00:14:44,000 今も傷が ご覧を 238 00:14:46,916 --> 00:14:51,791 でも偉大なヨガ行者は 逆上しないものです 239 00:14:51,791 --> 00:14:56,250 彼は恥じ 後悔し 己に失望していました 240 00:14:56,250 --> 00:14:59,625 そして弟子には できないが⸺ 241 00:14:59,625 --> 00:15:04,708 お詫びに簡単な教えを 授けると言うのです 242 00:15:04,708 --> 00:15:07,125 怒って当然なのに 243 00:15:07,125 --> 00:15:11,041 これが1890年 じき17歳の頃でした 244 00:15:13,000 --> 00:15:16,875 偉大な行者の教えとは? いきますよ 245 00:15:16,875 --> 00:15:21,541 人の心は散漫で 多くの事柄に関心が向く 246 00:15:21,541 --> 00:15:24,250 見る物 聞く物 嗅ぐ物 247 00:15:24,250 --> 00:15:27,208 思うまいとするほど思う 248 00:15:27,208 --> 00:15:29,250 1つの事柄のみ⸺ 249 00:15:29,250 --> 00:15:32,916 心に描ける集中力を 学ぶことだ 250 00:15:32,916 --> 00:15:35,958 修行すれば 任意の対象に⸺ 251 00:15:35,958 --> 00:15:39,458 約3分半 意識を集中させられる 252 00:15:39,458 --> 00:15:42,625 日々精進して20年はかかる 253 00:15:42,625 --> 00:15:44,291 “20年!”と私 254 00:15:44,291 --> 00:15:48,875 もっと長いかも できるとして普通20年だ 255 00:15:48,875 --> 00:15:50,541 私は老人に 256 00:15:50,541 --> 00:15:53,416 10年の者もいれば30年も 257 00:15:53,416 --> 00:15:56,333 1~2年で会得できる⸺ 258 00:15:56,333 --> 00:16:01,250 特別な逸材がいるが それは10億人に1人だ 259 00:16:01,250 --> 00:16:03,625 そんな難しいはずは... 260 00:16:03,625 --> 00:16:08,166 ほぼ不可能だ 試しに目を閉じ 考えろ 261 00:16:08,166 --> 00:16:11,291 1つのことを思い描くのだ 262 00:16:11,291 --> 00:16:16,541 すぐ心はさまよい出し 別の考えが忍び込む 263 00:16:16,541 --> 00:16:19,125 偉大な行者 かく語りき 264 00:16:20,708 --> 00:16:23,500 そして修行が始まります 265 00:16:24,083 --> 00:16:28,916 毎晩 座って目を閉じ 最愛の者を心に描く 266 00:16:28,916 --> 00:16:32,333 10歳で病死した兄の顔です 267 00:16:32,333 --> 00:16:36,208 集中しますが 心がさまよい出すと⸺ 268 00:16:36,208 --> 00:16:40,458 すぐ中止し 数分休憩 そして再び試す 269 00:16:40,458 --> 00:16:42,291 毎日5年続け 270 00:16:42,291 --> 00:16:46,750 兄の顔だけに1分半 集中できるように 271 00:16:46,750 --> 00:16:48,666 上達している 272 00:16:51,791 --> 00:16:55,833 その間 生活費は 奇術で稼ぎました 273 00:16:55,833 --> 00:17:00,708 手先は器用なんです でも修行は怠りません 274 00:17:00,708 --> 00:17:04,583 どこにいても毎晩 静かな場所で 275 00:17:04,583 --> 00:17:07,333 兄の顔に心を集中する 276 00:17:07,333 --> 00:17:10,583 時にロウソクも使いました 277 00:17:10,583 --> 00:17:14,041 ロウソクの炎は 3つから成る 278 00:17:14,041 --> 00:17:17,875 上が黄色 その下が藤色 中心が黒 279 00:17:17,875 --> 00:17:22,458 ロウソクを目と水平に 41センチ離します 280 00:17:22,458 --> 00:17:26,916 視線を調整する必要が ないようにです 281 00:17:26,916 --> 00:17:31,041 周囲の物が消えるまで 中心を見つめ 282 00:17:31,041 --> 00:17:35,000 その後 目を閉じ 兄の顔に集中する 283 00:17:35,916 --> 00:17:40,750 1907年 34歳の時 心がさまようことなく⸺ 284 00:17:40,750 --> 00:17:43,125 3分の集中に成功 285 00:17:43,125 --> 00:17:46,458 その頃 別の能力に気づきます 286 00:17:46,458 --> 00:17:48,291 かすかですが⸺ 287 00:17:48,291 --> 00:17:52,750 目を閉じて 何かを懸命に見つめると⸺ 288 00:17:52,750 --> 00:17:55,541 その輪郭が見えるのです 289 00:17:55,541 --> 00:17:57,583 行者の言葉です 290 00:17:57,583 --> 00:18:01,083 “聖者は非常な集中力を 会得して” 291 00:18:01,083 --> 00:18:04,000 “目を使わず物を見る” 292 00:18:04,000 --> 00:18:08,416 そこで毎晩 ロウソク修行を済ませると 293 00:18:08,416 --> 00:18:13,875 一服した後 目隠しをし 物を見ようとしました 294 00:18:13,875 --> 00:18:18,333 まずはトランプ 裏を見つめ 表を当てる 295 00:18:18,333 --> 00:18:20,583 すぐ成功率は6割に 296 00:18:20,583 --> 00:18:24,625 次に地図や海図を買い 部屋に貼って 297 00:18:24,625 --> 00:18:29,083 目隠し状態で見つめ 文字を読むのです 298 00:18:29,083 --> 00:18:33,291 これを続く8年間 毎晩 続けました 299 00:18:33,291 --> 00:18:37,958 1915年 目隠しで 本を読み切れるように 300 00:18:37,958 --> 00:18:41,291 やった ついに力を手に! 301 00:18:42,833 --> 00:18:45,541 奇術に取り入れました 302 00:18:45,541 --> 00:18:48,791 観客は喝采 でもトリックだと 303 00:18:48,791 --> 00:18:52,333 専門技術で 目隠しをした先生も⸺ 304 00:18:52,333 --> 00:18:55,375 信じようとしませんでした 305 00:18:55,375 --> 00:18:58,708 脳に映像を送る別の方法が 306 00:18:58,708 --> 00:19:01,208 彼は疲れ 黙り込んだ 307 00:19:01,208 --> 00:19:02,833 “別の方法とは?” 308 00:19:04,750 --> 00:19:06,750 分からないが⸺ 309 00:19:08,083 --> 00:19:10,958 体の別の部分で見てます 310 00:19:10,958 --> 00:19:11,958 どこで? 311 00:19:22,125 --> 00:19:26,833 私は眠れなかった 科学者は腰を抜かすはず 312 00:19:26,833 --> 00:19:28,875 貴重すぎる人材だ 313 00:19:28,875 --> 00:19:32,625 目を使わず 映像を脳に送る方法を⸺ 314 00:19:32,625 --> 00:19:35,375 科学的に解明しなければ 315 00:19:35,375 --> 00:19:38,833 それで盲人や聾者(ろうしゃ)を救える 316 00:19:38,833 --> 00:19:41,541 彼を大切にしなければ 317 00:19:41,541 --> 00:19:45,333 私は丁寧に 速記を清書し始めた 318 00:19:45,333 --> 00:19:47,416 5時間 書き続けた 319 00:19:50,125 --> 00:19:55,041 朝8時 重要部を書き上げた それが以上の内容だ 320 00:19:55,041 --> 00:20:00,291 休憩時 マーシャルと会い 話せるだけ話した 321 00:20:00,291 --> 00:20:02,916 “今夜またホールに行く” 322 00:20:02,916 --> 00:20:04,291 同行しよう 323 00:20:04,291 --> 00:20:06,875 6時45分ホールに到着 324 00:20:06,875 --> 00:20:09,458 車を停めて 会場へ 325 00:20:09,458 --> 00:20:13,625 “何か変だ” 客がおらず扉も閉まってる 326 00:20:13,625 --> 00:20:17,666 ポスターの上には 何か書いてある 327 00:20:17,666 --> 00:20:20,125 “本日の公演中止” 328 00:20:20,875 --> 00:20:24,208 門番に尋ねる “何があったんだ?” 329 00:20:24,208 --> 00:20:25,583 人が死んだ 330 00:20:25,583 --> 00:20:27,958 “誰?” 分かっていた 331 00:20:27,958 --> 00:20:29,916 目を使わず見る男 332 00:20:30,666 --> 00:20:32,208 “どうして?” 333 00:20:32,208 --> 00:20:36,625 寝て 目覚めなかった たまにあるんだ 334 00:20:39,750 --> 00:20:41,416 我々は車へ 335 00:20:46,125 --> 00:20:48,500 悲しみと怒りが襲う 336 00:20:48,500 --> 00:20:52,500 目を離さず 私の部屋で寝かせてれば... 337 00:20:52,500 --> 00:20:54,000 奇跡の男 338 00:20:54,000 --> 00:20:58,333 常人の及ばない 不思議な力を持った男 339 00:20:58,333 --> 00:21:00,083 それが死んだ 340 00:21:00,083 --> 00:21:01,833 マーシャルが言う 341 00:21:02,625 --> 00:21:03,875 終わったな 342 00:21:04,500 --> 00:21:07,750 “ああ”と私 “終わったんだ” 343 00:21:12,625 --> 00:21:17,291 以上がカーンとの 2度の出会いの記録だ 344 00:21:20,416 --> 00:21:21,916 これは! 345 00:21:22,708 --> 00:21:25,166 極めて興味深い 346 00:21:26,166 --> 00:21:28,750 ものすごい情報だ 347 00:21:29,916 --> 00:21:31,625 人生が変わるぞ 348 00:21:51,125 --> 00:21:53,541 彼が言った情報とは⸺ 349 00:21:53,541 --> 00:21:58,833 カーンがトランプを 裏から読む修行のことだった 350 00:21:58,833 --> 00:22:01,541 イカサマも辞さない彼は⸺ 351 00:22:01,541 --> 00:22:05,083 これで一財産 作れると思った 352 00:22:05,083 --> 00:22:10,208 彼は執事に ロウソクと 燭台(しょくだい)と定規を求め 353 00:22:10,208 --> 00:22:14,041 寝室に行き 鍵を掛け 部屋を暗くし 354 00:22:14,041 --> 00:22:16,625 鏡台にロウソクを置く 355 00:22:16,625 --> 00:22:20,083 芯の高さは 彼の目と水平だった 356 00:22:20,083 --> 00:22:25,541 定規を使い ロウソクから 40センチの所に陣取る 357 00:22:25,541 --> 00:22:29,125 カーンは最愛の者を 心に描いた 358 00:22:29,125 --> 00:22:33,458 死んだ兄だ ヘンリーは兄弟がいない 359 00:22:34,041 --> 00:22:36,958 そこで自分の顔にした 360 00:22:43,750 --> 00:22:48,583 炎を見つめだすと 驚くべきことが起きた 361 00:22:48,583 --> 00:22:51,791 心は空っぽ いら立ちが消える 362 00:22:51,791 --> 00:22:55,083 突然 炎の黒い無の部分に⸺ 363 00:22:55,083 --> 00:22:58,708 体が心地よく 包まれる気がした 364 00:22:59,291 --> 00:23:01,500 わずか15秒のことだ 365 00:23:01,500 --> 00:23:03,791 以後 どこにいても⸺ 366 00:23:03,791 --> 00:23:07,291 日に5回 ロウソク修行を行う 367 00:23:07,291 --> 00:23:10,291 {\an8}1ヵ月後 何かに夢中になるのは 初めてだ 368 00:23:10,291 --> 00:23:11,041 何かに夢中になるのは 初めてだ 369 00:23:11,041 --> 00:23:14,083 めざましい上達ぶりだった 370 00:23:14,083 --> 00:23:17,083 半年後には1つの邪念も 浮かぶことなく⸺ {\an8}半年後 371 00:23:17,083 --> 00:23:18,625 半年後には1つの邪念も 浮かぶことなく⸺ 372 00:23:18,625 --> 00:23:21,541 3分の集中に成功する 373 00:23:21,541 --> 00:23:23,166 “私なんだ!” 374 00:23:23,166 --> 00:23:27,791 “短期で会得できる 10億人に1人の逸材は” 375 00:23:27,791 --> 00:23:31,333 1年目の終わり 5分半を超えた 376 00:23:32,250 --> 00:23:33,375 時は来た 377 00:23:36,916 --> 00:23:37,666 {\an8}1959年9月16日 378 00:23:37,666 --> 00:23:39,833 {\an8}1959年9月16日 自宅の居間 真夜中 彼は興奮していた 379 00:23:39,833 --> 00:23:42,083 {\an8}自宅の居間 真夜中 彼は興奮していた 380 00:23:42,083 --> 00:23:46,041 トランプ透視に挑む まずは一番上 381 00:23:46,041 --> 00:23:49,833 最初は裏の 赤い模様を見つめた 382 00:23:49,833 --> 00:23:52,750 一番ありふれた図柄だ 383 00:23:52,750 --> 00:23:56,375 次にカードの表へと 集中を移す 384 00:23:56,375 --> 00:24:00,500 見えない部分を 一心不乱に凝視する 385 00:24:00,500 --> 00:24:04,916 30秒 1分 2分 3分 筋肉も動かない 386 00:24:04,916 --> 00:24:07,500 高度で完全な集中だ 387 00:24:07,500 --> 00:24:12,000 反対側を視覚化 邪念が入る余地はない 388 00:24:12,000 --> 00:24:14,375 4分が過ぎ 変化が 389 00:24:14,375 --> 00:24:16,333 少しずつだが⸺ 390 00:24:16,333 --> 00:24:20,125 黒い塊がスペードに 曲線が5に 391 00:24:20,125 --> 00:24:21,708 スペードの5 392 00:24:21,708 --> 00:24:25,000 震える指でカードを裏返す 393 00:24:26,041 --> 00:24:27,250 “やったぞ” 394 00:24:28,333 --> 00:24:32,291 食事を買う以外は 部屋から出ない 395 00:24:32,291 --> 00:24:36,583 時には夜まで 透視時間を計り 挑み 396 00:24:36,583 --> 00:24:38,833 徐々に時間は減る 397 00:24:38,833 --> 00:24:41,791 1ヵ月後1分半 半年後20秒 398 00:24:41,791 --> 00:24:45,000 その7ヵ月後10秒 目標は5秒 399 00:24:45,000 --> 00:24:49,875 5秒以内で読めないと カジノでは疑われる 400 00:24:49,875 --> 00:24:53,916 だが目標に近づくほど 到達が難しい 401 00:24:53,916 --> 00:24:58,083 10秒から9秒に4週間 8秒に5週間 402 00:24:58,083 --> 00:25:02,375 苦ではない 連続12時間でも平気だ 403 00:25:02,375 --> 00:25:04,791 できる確信がある 404 00:25:04,791 --> 00:25:07,333 最後の2秒に11ヵ月 405 00:25:07,333 --> 00:25:09,041 ある土曜の午後... 406 00:25:16,708 --> 00:25:20,583 5秒 続けて全部の カードを試す 407 00:25:20,583 --> 00:25:24,458 5秒 5秒 5秒 408 00:25:25,500 --> 00:25:27,833 会得に要した時間は? 409 00:25:28,666 --> 00:25:31,666 間断なき修行で3年3ヵ月 410 00:25:33,208 --> 00:25:35,625 ロンドンのカジノで⸺ 411 00:25:35,625 --> 00:25:39,750 ヘンリーのお気に入りは ローズハウス 412 00:25:39,750 --> 00:25:43,041 壮麗な建物の最高級カジノだ 413 00:25:43,041 --> 00:25:44,166 シュガー様 414 00:25:44,166 --> 00:25:46,916 顔を忘れないのが仕事 415 00:25:46,916 --> 00:25:50,125 立派な階段を上がり 両替所へ 416 00:25:50,125 --> 00:25:52,250 小切手で1万ポンド 417 00:25:52,250 --> 00:25:56,416 ルーレットに集まる女は 餌に群がる雌鶏 418 00:25:56,416 --> 00:26:01,125 男は欲でギラギラする目で チップを数える 419 00:26:02,541 --> 00:26:07,583 ヘンリーは金持ちに対し 初めて嫌悪感を抱いた 420 00:26:07,583 --> 00:26:12,166 ブラックジャック ディーラーの左の席へ 421 00:26:12,166 --> 00:26:15,250 高額チップをディーラーに 422 00:26:15,250 --> 00:26:18,458 中年前 目は黒 青白い肌 423 00:26:18,458 --> 00:26:20,791 ムダ口はきかない 424 00:26:20,791 --> 00:26:23,583 手が細く 指が計算機だ 425 00:26:23,583 --> 00:26:26,875 25ポンドチップを山積みに 426 00:26:26,875 --> 00:26:31,250 数えなくても間違わない チップが来た 427 00:26:31,250 --> 00:26:34,875 札箱の上のカードを 盗み見る 428 00:26:34,875 --> 00:26:38,375 10だ チップを8枚 200ポンド 429 00:26:38,375 --> 00:26:40,583 店の賭け金の最高額 430 00:26:40,583 --> 00:26:44,333 10が来た 2枚目は9 合計19だ 431 00:26:44,333 --> 00:26:49,083 普通は勝負 ディーラーが 下回るのを祈る 432 00:26:49,083 --> 00:26:51,708 ディーラーが... “19” 433 00:26:51,708 --> 00:26:54,333 隣の客へ “待て”とヘンリー 434 00:26:54,333 --> 00:26:58,333 戻ったディーラーの 視線は冷ややかだ 435 00:26:58,333 --> 00:27:00,583 “引くので?” 素っ気ない 436 00:27:00,583 --> 00:27:04,208 21を超えないのは Aか2だけ 437 00:27:04,208 --> 00:27:08,250 200ポンド賭けたら 19では引かない 438 00:27:08,250 --> 00:27:11,375 次のカードの裏が見えてる 439 00:27:11,375 --> 00:27:14,833 “もう1枚だ” 肩をすくめ 配る 440 00:27:14,833 --> 00:27:18,083 10と9の隣にクラブの2が 441 00:27:18,083 --> 00:27:19,708 “21”とディーラー 442 00:27:19,708 --> 00:27:24,500 彼の黒い目に 警戒と困惑の色が浮かんだ 443 00:27:25,666 --> 00:27:29,208 19で引く者は見たことがない 444 00:27:29,208 --> 00:27:33,750 この客は確信を持って引き しかも勝った 445 00:27:33,750 --> 00:27:37,166 ヘンリーは 失敗したと気づく 446 00:27:37,166 --> 00:27:39,500 注意を引いた “失礼” 447 00:27:39,500 --> 00:27:44,125 もう許されない たまに わざと負けねば 448 00:27:44,125 --> 00:27:49,583 ゲーム続行 有利でも 適度に勝つのは難しい 449 00:27:49,583 --> 00:27:54,916 1時間で3万ポンド もっと勝てたが やめる 450 00:27:54,916 --> 00:27:56,208 ありがとう 451 00:27:56,208 --> 00:28:01,458 ヘンリーが誰より早く 稼げるのは間違いない 452 00:28:03,666 --> 00:28:04,750 面白い 453 00:28:09,041 --> 00:28:11,333 これが創作なら⸺ 454 00:28:11,333 --> 00:28:15,583 予想を超える刺激的な結末が 必要なところだ 455 00:28:15,583 --> 00:28:17,250 劇的で意外 456 00:28:17,250 --> 00:28:20,416 例えば帰宅し 金を数えてると⸺ 457 00:28:20,416 --> 00:28:24,875 彼は気分が悪くなり 胸に痛みを感じる 458 00:28:25,875 --> 00:28:30,250 寝ようと服を脱ぎ パジャマを取りに 459 00:28:30,250 --> 00:28:33,458 壁の姿見を過ぎ 立ち止まる 460 00:28:33,458 --> 00:28:36,541 習慣で 鏡の自分に集中する 461 00:28:36,541 --> 00:28:41,250 すぐに肌を透視 X線写真よりも鮮明だ 462 00:28:41,250 --> 00:28:46,541 血が流れる動脈や静脈 肝臓 腎臓 腸 心臓 463 00:28:46,541 --> 00:28:48,708 痛みの元を見ると⸺ 464 00:28:48,708 --> 00:28:52,958 心臓の右側に続く大静脈に 黒い塊が 465 00:28:52,958 --> 00:28:55,916 血栓(けっせん)だ 最初は動かない 466 00:28:55,916 --> 00:28:59,083 それが少し動く 1ミリほど 467 00:28:59,083 --> 00:29:03,083 流れる血に押されて また血栓が動く 468 00:29:03,083 --> 00:29:06,166 1センチ 怯えながら見る 469 00:29:06,166 --> 00:29:09,666 静脈を移動する血栓は いずれ⸺ 470 00:29:09,666 --> 00:29:12,500 心臓へ 彼は死ぬのだ 471 00:29:12,500 --> 00:29:16,416 小説なら悪くないが これは実話だ 472 00:29:16,416 --> 00:29:19,333 ヘンリー・シュガーは仮名 473 00:29:19,333 --> 00:29:22,750 本名は今も 伏せる必要がある 474 00:29:22,750 --> 00:29:28,000 それ以外は実話だ だから本当の結末がある 475 00:29:28,000 --> 00:29:29,583 それを語ろう 476 00:29:33,916 --> 00:29:38,583 彼は歩いた 夜気が涼しい 街は寝ない 477 00:29:38,583 --> 00:29:43,500 上着の内ポケットには札束 優しく叩く 478 00:29:43,500 --> 00:29:48,041 1時間の稼ぎとしては大金 だが戸惑う 479 00:29:48,041 --> 00:29:51,583 大成功したが なぜか興奮しない 480 00:29:51,583 --> 00:29:56,041 修行以前の3年前なら 大騒ぎをして 481 00:29:56,041 --> 00:29:58,666 クラブで祝杯を挙げてた 482 00:29:58,666 --> 00:30:02,083 だが興奮どころか 気が滅入る 483 00:30:02,083 --> 00:30:04,916 賭けても勝つと知ってる 484 00:30:04,916 --> 00:30:08,083 スリルも緊張感もないのだ 485 00:30:08,083 --> 00:30:12,750 世界中を回って稼げるが それで楽しいか? 486 00:30:12,750 --> 00:30:17,166 それとヨガの能力を 会得する過程で⸺ 487 00:30:17,166 --> 00:30:20,833 彼の人生観が 変わった可能性は? 488 00:30:20,833 --> 00:30:22,041 あり得る 489 00:30:22,750 --> 00:30:25,458 翌朝 遅く起きたヘンリー 490 00:30:25,458 --> 00:30:30,208 鏡台の上の札束を見る 欲しいと思えない 491 00:30:54,500 --> 00:30:55,333 金だ! 492 00:30:55,333 --> 00:30:58,958 おはよう あげる プレゼントだ 493 00:31:01,000 --> 00:31:01,833 何? 494 00:31:02,625 --> 00:31:04,291 早くしまえ 495 00:31:05,458 --> 00:31:06,291 ああ 496 00:31:15,208 --> 00:31:16,250 何? 497 00:31:16,250 --> 00:31:17,166 金だ 498 00:31:17,166 --> 00:31:18,375 取っとけ 499 00:31:24,583 --> 00:31:25,416 見ろ! 500 00:31:28,875 --> 00:31:29,708 早く 501 00:32:04,541 --> 00:32:05,708 呼び鈴だ 502 00:32:05,708 --> 00:32:07,541 何のまねだ? 503 00:32:07,541 --> 00:32:10,000 失礼 金を恵んでいて 504 00:32:10,000 --> 00:32:11,500 暴動扇動だ 505 00:32:11,500 --> 00:32:15,000 もう やりません じき皆も帰る 506 00:32:15,000 --> 00:32:18,000 警官は50ポンド札を見せる 507 00:32:18,000 --> 00:32:21,333 “拾ったのか” “証拠品だ どこで?” 508 00:32:21,333 --> 00:32:24,166 カジノで勝った バカツキさ 509 00:32:24,166 --> 00:32:26,875 店名を言い 警官がメモ 510 00:32:26,875 --> 00:32:28,333 証言するさ 511 00:32:28,333 --> 00:32:31,958 手帳を下げた “知るか 関係ない” 512 00:32:31,958 --> 00:32:36,541 君の話は信じるが 全然 言い訳にならん 513 00:32:36,541 --> 00:32:39,083 違法行為をしました? 514 00:32:39,791 --> 00:32:40,708 違法? 515 00:32:41,458 --> 00:32:42,583 バカ者め! 516 00:32:43,333 --> 00:32:46,708 ツキまくり 大金を稼いだから⸺ 517 00:32:46,708 --> 00:32:49,750 恵むとして 窓から投げるか? 518 00:32:49,750 --> 00:32:53,958 善行を行う所へ恵め 病院や孤児院とか 519 00:32:53,958 --> 00:32:59,375 クリスマスの贈り物も 買えない所ばかりだ 520 00:32:59,375 --> 00:33:03,666 なのに貧乏も知らん 金持ちのアホウが⸺ 521 00:33:03,666 --> 00:33:06,666 道に金をバラまくとはな! 522 00:33:06,666 --> 00:33:10,666 警官は帰った 立ちすくむヘンリー 523 00:33:10,666 --> 00:33:14,750 彼の言葉と怒りが 心に深く刺さった 524 00:33:14,750 --> 00:33:17,708 恥じ入る 最悪の気分だ 525 00:33:23,916 --> 00:33:28,500 突然 雷に打たれたような 衝撃に襲われる 526 00:33:28,500 --> 00:33:32,208 大転換のアイデアが 頭に浮かんだ 527 00:33:32,208 --> 00:33:36,916 歩きながら 実現に向け ポイントを整理する 528 00:33:36,916 --> 00:33:39,333 1 今日から毎日⸺ 529 00:33:39,333 --> 00:33:41,916 大金をカジノで稼ぐこと 530 00:33:42,500 --> 00:33:46,250 2 同じ店に行くのは 半年に1度 531 00:33:46,250 --> 00:33:51,333 3 大勝ちは慎む 1晩5万ポンドが上限 532 00:33:51,333 --> 00:33:55,166 4 1晩5万で 365日だから⸺ 533 00:33:55,166 --> 00:33:57,916 年に1825万ポンドだ 534 00:33:57,916 --> 00:34:01,791 移動を続ける 1つの街に2~3晩 535 00:34:01,791 --> 00:34:07,083 モンテカルロ カンヌ ラスベガスという具合だ 536 00:34:07,083 --> 00:34:11,416 6 勝った金で 病院と孤児院を建てる 537 00:34:11,416 --> 00:34:16,083 夢なら陳腐だが現実なら? 私なら可能よ 538 00:34:16,083 --> 00:34:20,208 陳腐どころか とてつもないことだわ 539 00:34:20,208 --> 00:34:25,541 7 金を受け取り 必要な所へ送る相棒が要る 540 00:34:25,541 --> 00:34:28,791 絶対的に信頼できる 堅い人間 541 00:34:28,791 --> 00:34:32,041 ジョン・ウィンストンは 彼の会計士 542 00:34:32,041 --> 00:34:34,708 代々シュガー家の会計を担う 543 00:34:34,708 --> 00:34:36,708 大金持ちになれる 544 00:34:38,833 --> 00:34:41,000 なりたいと思わない 545 00:34:43,583 --> 00:34:46,250 英国だと税金で取られる 546 00:34:46,250 --> 00:34:51,125 スイスだ すぐは無理 私は独身ではない 547 00:34:51,125 --> 00:34:54,000 妻や同僚と話さないと 548 00:34:54,000 --> 00:34:58,916 それに家の問題や 子供の学校 時間が要る 549 00:34:58,916 --> 00:35:04,000 1年後 スイスのジョンに 1億2000万ポンド送金 550 00:35:04,000 --> 00:35:08,458 送金先はウィンストン・ シュガー合同会社 551 00:35:08,458 --> 00:35:12,708 金の出所や使途は 2人しか知らない 552 00:35:12,708 --> 00:35:18,333 週末は銀行が閉まるので 月曜の送金額が最大だった 553 00:35:18,333 --> 00:35:22,750 ヘンリーは頻繁に移動し 身元も変えた 554 00:35:22,750 --> 00:35:25,416 居場所を知るヒントは⸺ 555 00:35:25,416 --> 00:35:29,791 彼が送金した銀行の 住所という時も 556 00:35:49,541 --> 00:35:52,958 ヘンリーは肺塞栓(そくせん)で 63歳で死去 557 00:35:52,958 --> 00:35:56,166 死期を知りながら 安らかだった 558 00:35:56,166 --> 00:36:01,458 20年 計画に沿い続け 6億4400万ポンドを稼ぎ 559 00:36:01,458 --> 00:36:06,208 小児病院と孤児院を 世界に21も設立した 560 00:36:06,208 --> 00:36:10,333 出資と運営は ジョンが行っている 561 00:36:10,333 --> 00:36:12,000 任務完了だ 562 00:36:16,125 --> 00:36:20,208 なぜ私が子細を知るのか? 答えよう 563 00:36:20,208 --> 00:36:23,791 彼の死後 ジョンから電話が来た 564 00:36:23,791 --> 00:36:28,750 彼はウィンストン・ シュガー社の代表と名乗り 565 00:36:28,750 --> 00:36:34,000 スイスに来て 簡単な社史を 書いてくれと言う 566 00:36:34,625 --> 00:36:39,125 作家名簿から無作為に 私を選んだのかも 567 00:36:39,125 --> 00:36:41,375 稿料は はずむと言い 568 00:36:41,375 --> 00:36:45,291 “H・シュガーという 傑物が亡くなり” 569 00:36:45,291 --> 00:36:49,125 “彼の功績を伝えたい”と 付け加えた 570 00:36:49,125 --> 00:36:50,208 失礼だが⸺ 571 00:36:50,208 --> 00:36:54,541 活字にするほど 面白い話かと尋ねた 572 00:36:54,541 --> 00:36:58,041 ジョンは 気分を害したようで 573 00:36:58,625 --> 00:37:03,041 ヘンリーの秘密を5分 話してくれた 574 00:37:03,041 --> 00:37:08,083 もう秘密ではない 彼はカジノに行かないのだ 575 00:37:08,083 --> 00:37:10,083 私は“行く”と 576 00:37:10,083 --> 00:37:13,000 ジョンは70歳過ぎ 577 00:37:13,000 --> 00:37:17,291 メーキャップアーティストの マックスにも会った 578 00:37:17,291 --> 00:37:20,166 ヘンリーの変装担当だ 579 00:37:20,166 --> 00:37:24,333 2人は落ち込んでいた 特にマックスが 580 00:37:24,333 --> 00:37:26,625 実に偉大な男だった 581 00:37:26,625 --> 00:37:29,666 あの濃紺のノートも見た 582 00:37:29,666 --> 00:37:34,833 チャテルジーの書いた物だ 後に全部 書き写した 583 00:37:34,833 --> 00:37:36,375 最後に尋ねた 584 00:37:36,375 --> 00:37:40,083 ヘンリー・シュガーは 本名でないとか 585 00:37:40,083 --> 00:37:43,375 私の本で 本名を明かしても? 586 00:37:43,375 --> 00:37:44,750 “いかん”とジョン 587 00:37:44,750 --> 00:37:49,750 秘密にすると約束した いずれ漏れるかもな 588 00:37:49,750 --> 00:37:54,125 名家の出だが 詮索無用だとありがたい 589 00:37:54,125 --> 00:37:56,791 “ヘンリー・シュガー”で 590 00:37:58,833 --> 00:38:00,583 だから以上だ 591 00:38:07,791 --> 00:38:11,583 原作者のダールは グレート・ミッセンデンの 592 00:38:11,583 --> 00:38:14,916 執筆用小屋 ジプシー・ハウスにて⸺ 593 00:38:14,916 --> 00:38:18,375 1976年2月から12月に 本作を執筆した 594 00:39:22,375 --> 00:39:24,375 日本語字幕 風間 綾平